顔ハメ看板ニスト 塩谷朋之 × Anoraks 古川太一 対談

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対談篇と古川太一篇の2部構成でお届けします!! 

[対談編]

●なんで顔ハメに興味を持ち始めたんですか?

塩谷 : それは覚えてないですね。始めはわざわざ自分で調べて撮りに行ったりはしていなかったと思います。最初のほうで覚えているのは、捨てられているみたいな顔ハメがあって、それを所有している人に出してくれと頼んだら、汚いから触りたくないし出せないと言われたんですが、そこをなんとかと言って出してもらって、三脚ですごい熱心に撮っていたら、それを綺麗にして置いてくれるようになったんですね。

古川 : 僕は旅行の時とかにオブジェクトを見つけて、穴が開いているところに顔をハメて、みんながキャーキャー言っているのがハッピーで素晴らしいなと思い、そこから興味を持つようになったと思います。

●今までで一番印象的だった顔ハメってなんですか?

塩谷 : 何枚かあって、まず1枚は不動産屋と一緒に車に乗って家を探している時に消防署の前で見つけたんですよ。でも上司が後ろに乗っていたので今止まるわけにはいかないと思って、次の日その場所に行ったら出てなかったんですよ。それで「昨日出ていた顔ハメを出して下さい」って頼んだら「ちょっと待って下さい」と言われて、出してくれるんだと思って待っていたら、消防車が動いたんですよ。で、カラカラカラカラカラって音がして、見たら乗っていて、それが一番印象的でした。

●それはかなり衝撃的ですね。

塩谷 : あとは大島に旅行に行った時に、それは元々あると分かっていたものなんですけど、かなり古い顔ハメがあって、写真を撮っていたら、そこにいたお店のおばちゃんが「これは私が嫁いだ時からあったものなの。お義父さんが作ったもので、40年前ぐらいにはあったの」と言ったから、本当に驚きました。お義父さんが今89歳でそのおばちゃんは50歳ぐらいだったので、今のおばちゃんぐらいの歳の頃に作ったものなんだな、と思って。その顔ハメは木に書いたものだったので年期が入っていて、かなり古びていました。味のある感じでした。

●すごい歴史ですね。他にはないんですか?

塩谷 : あとは熱海に置いてある顔ハメを探しに行ったりしましたよ。

古川 : ああいう怪しげなところに置いてあるのがいいですよね。

塩谷 : 寂れたところに置いてあるほうが、「待たせたね」みたいな気分になりますね。

古川 : それは僕がレコードを探している時と同じ感覚です。もう僕しか買う人はいない、みたいな。誰も目を付けていないところにいっちゃったみたいな。だからやっぱり僕の中ではすごく音楽と共通点があるんです。せっかく同じ様な感覚を持った人に出会えたのだから、今度塩谷さんが写真展をやる時には、僕が1個面白い顔ハメを作って提供したいなと思っています。日本でも有数な顔ハメ看板ニストですもんね。

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●塩谷さんは実際今どれぐらいのコレクションがあるんですか?

塩谷 : 900ちょいですね。

古川 : 塩谷さんは顔ハメの写真展とかもやっていたんですもんね。その写真展をやっていたカフェに勤めていたのが偶然僕の友達(この日取材をしたお店の店員2名)で、すごい繋がりなんです。だからつまり顔ハメは音楽と一緒で人と人を繋げるんです!!電車もそうだし、旅もそうだし、写真もそうだけど、そういう好きなものに対してまっすぐ向き合っている人同士が自然と繋がるんです。

●2人はビールを飲みながら顔をハメるのは邪道だと言っていましたよね?

塩谷 : 最初はそんなことなかったんですけどね(笑)。僕はすごくお酒を飲むのが好きで、でもある時からハメる前にお酒を飲んじゃダメだなと思って。

古川 : 僕もなんとなくわかります。真剣にそこに向かうならば、失礼かなって。塩谷さんは顔ハメだけじゃなく、音楽とか色んなところに拘りが感じられるんですよ。そういう部分で打ち解けた感じですね。レコードが好きとか、僕と似た部分もあって。

●塩谷さんも古川さんと同じように、顔ハメが音楽とリンクする部分はあると思いますか?

塩谷 : 僕の中では全くないんですが、顔ハメを見て、これはパンクだなとかこれはロックだなとか思う時はありますね。僕は基本パンクロック、ハードコアなどの自己破壊的な音楽がすごい好きですね。だからそういう風に顔をハメたいという意識がありますね。

古川 : 僕もそのストイックさを感じ取って話しかけたんですよ。初めは「僕が写真を撮りましょうか?」みたいな感じで話しかけたら、「いえ、大丈夫です」と言っていきなり三脚を出し始めて、この人なんか違うなと思って。すごく礼儀正しいし。自分が作ったものをいい感じで撮ってもらいたかったから、撮られる側の緊張もあったとは思うんですけど。

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塩谷氏は実際に三脚とカメラを持ち歩き、自分で決めた構図で顔ハメ看板を写真に収めている。

●塩谷さんは顔ハメのために色んな県を回ったりしているんですか?

塩谷 : まだ半分ぐらいですね。やっぱりどうしても普段は東京近郊になってしまいますよね。あと毎年北海道は行きますけど。

古川 : 北海道の顔ハメ看板大会の審査員をやられてますもんね?

●えっ、どんな大会なんですか?

塩谷 : 今年が8回目で、出ていた作品が3枚だったかな。去年も3枚だったので、開催が危ぶまれる感じですね。

古川:わざわざ北海道まで行ってその3枚の中から優勝を選ぶ塩谷さんの写真がブログに出てきた時にヤバいって盛り上がりましたね(笑)。

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ひがしかぐら花まつり
http://www.town.higashikagura.lg.jp/30event/2012event.html

●そのパネル3枚に対して審査員は何人ぐらいいるんですか?

塩谷 : 審査員は3枚に対して4人です。審査員のほうが多いんです(笑)。

●審査員はどんな方々なんですか?

塩谷 : 僕みたいに顔ハメが大好きな人が1人いたんですが、それ以外の人は街の結構有名な会社の社長さんだったりしましたね。だから僕は穴の位置とか大きさとか形とかを気にして評価していたんですが、僕以外の人はそんなことには関心がなくて...。

●ハメ易い穴の形ってどんな形ですか?

塩谷 : 楕円ですね。

古川 : でも難しいですよね。僕が顔ハメを展示しようって思った時に一番考えたのが、穴の大きさと空ける位置だったんです。それであそこが顔なんだろうなという部分に空けたんです。

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●塩谷さんは今すごく興味があって行ってみたい顔ハメとかってあるんですか?

塩谷 : 最近すごく痺れたニュースがあって。被災した宮城県の石巻の話なんですけど、「石ノ森萬画館」というのがあって、そこに仮面ライダーの顔ハメが設置してあるというのは知っていたんです。でも被災して、東北のほうは顔ハメも相当壊れちゃったりしていたみたいで...。ところがつい最近のニュースで、復興して駅前に商店街ができて、その「石ノ森萬画館」にあった顔ハメは津波で2キロぐらい流されてしまったらしいんですけど、奇跡的に回収されてそれが置いてありますみたいな話を聞いて。

古川 : 最後の最後にとてもいい話ですね。それ今度行きましょう!!

塩谷 : やっぱりちょっと東北の方へ行きたいですよね。福島に2、3ヶ月前に行ったらまだ道の駅に顔ハメがあってびっくりしました。ハメてるのは僕だけなんですけどね。壊されるわけじゃなくて置いてあるっていうのにすごく意味がある気がして。やっぱり前向きな気持ちじゃないとそうならないと思ったんで。

古川 : そうですね。やっぱり僕も顔ハメをやろうと思ったのは、人をハッピーにできるからです。むしろハッピーにしかできないから、だからその石巻の顔ハメもきっと戻って来たんだと思います。それは本当に泣けるいい話ですね。

●最後に、2人にとって顔ハメとはなんですか?

古川 : 自分の表現方法。僕の中では音楽と同じだけど、そんな感じです。

塩谷 : 僕にしてみたら人生の一部ですね。呼吸するのと一緒で、あったらハメるだけなんです。だから意識してやっているわけじゃなくて、「なんで好きなんですか?」って言われたら「分かんないです」っていうようなものなんですけど、それが一番大事というか。好きな理由を聞かれて答えられるようなものっていうのは、そこまでじゃなくて。だから僕の中では無意識にできることが顔ハメなんです。

古川 : 確かに無意識にできることに本質がありますよね。僕もよく考えたら何をやるにしても意識していないかもしれません。絵を書くのも顔ハメも意識してやったわけじゃないし、ただ面白いからやっただけですね。

一同 : すごいまとまりましたね!(笑)。

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[古川太一篇]

●太一さんは他にも色々やられているのに、展覧会をやるっていうときになんであえて顔ハメを選んだんですか?

古川 : 実は2010年末位から、僕は物を作り始めていたんですよ。顔ハメの前に、自分が行った都市と自分の目線で鉄道とか拘りのある部分を取り上げて、弟と一緒にグラフィックで街を面白く作っていこうみたいな企画があって、それをトートバッグで販売するというところから始まって。で、お土産屋さんというテーマも考えた時にフッと出てきたのが顔ハメだったんですよ。僕は絵画を提供する絵描きでもないし、何か楽しい場所を提供できないかなと考えた時に、最初はその名前も知らなくて、あれはなんて言うんだろうというところから始まったんですけど、顔ハメという表現方法が一番しっくりきたんですよ。駅とかにもあるから、鉄道とかにもなんとなく近くて。等身大のパネルから顔をくり抜いたら面白いんじゃないかと思って。今回の展覧会に関しては僕が主導で、自分でアイディアを持ってきて、最初は1個だけ作ろうと思っていたんです。それこそお土産屋さんみたいな感じで、その都市で1つだけ印象的なものの顔ハメを作って、そこでみんなが記念撮影をしてみたいな感じで展覧会をやろうと思って。そしたら弟からダメ出しが入って。みんなと同じようなことをしても面白くないから、だったら顔ハメだけにしたらいんじゃない?と言われて。確かにそっちのほうが面白いかなと思って、じゃあやろうということになりました。今回の展覧会は自分の絵に人が顔をハメることによって1つのアートが生まれて、それをみんながお土産として記念に持ち帰るみたいな意味合いがあったんです。

●今回の展覧会のテーマは大分前から決まっていたんですか?

古川 : 旅行とお土産屋さんというテーマ自体は決まっていました。テーマも描く絵もあるのに、ただその表現方法が決まっていなかっただけで。何で表現するか考えた結果、まずは等身大オブジェクトにしようと思って、最終的には顔ハメになりました。それが一番お土産屋さんというちょっとふざけた感じも表現できていいかな、と。ギャラリーで写真撮り放題っていうのもとても楽しいと思うし。ニューヨークにライヴした時に行ったギャラリーが全部撮影OKだったり、それがとても居心地が良くて。そういう自由な空間っていうのがいいなと思って。みんなに架空の観光地に旅行に来た気分になってもらいたいから、ただのパネルじゃないのに意味があるんです。普段アートには触れることができないからこそ、こういう触れるアートって面白いですよね。

●でも基本的には顔ハメってアートというよりは、観光地でおばあちゃんとか子供が娯楽で撮ってるイメージですよね?

古川 : そうなんですけど、そこをなんとかアートに持っていこうと思って。まずギャラリーに入ってきた瞬間にびっくりするし、それが顔ハメっていうのが面白いし、みんなどこかひっかかる部分はあると思うんですけど、自分の好きな空間にしたくて。A級アートではなくB級アートだと思うんですけど、僕は多分A級アートはできないんで。みんながハッピーになる感じがいいかなと思って。

●なるほど。でも顔ハメとかって人物にハメるイメージが強いんですけど、テーマは都市ですもんね?

古川 : そうですね。でも顔型に抜いとけばハメるかなと思って。人物じゃないことによってヘンテコな世界観ができ上がるっていうのがまた良くて。穴がないものに穴が空いていると、シュールで心地よい世界観ができますよね。日常的にあるものを拾い上げるとアートになる、それがとても面白いのです。みんなが普段素通りしているものに目を付けるっていうことが僕の中ではとても重要で、普通と違った目線で物事を見る事をとても意識しています。

●最終日は東京とニューヨークが一緒に展示されていましたが、配置に特別な意味はあったんですか?

古川 : あれは塩谷さんと一緒に配置を考えたんです。ニューヨークと東京が向かい合っていて、最後は東京駅で旅立つっていうコンセプト。そして帰るときにはお土産屋さんもあるっていう、ちょっとアトラクションみたいな感じ。最終日が本当にみんな自然に顔をハメてて、初めはみんな恥ずかしがっていたんですけど、最後はコミュニケーションの場としてもとても良い雰囲気になっていました。僕は昔から美術館とかは難しい感じがして苦手だったので、そういう人間がアートを表現するのには、これぐらいパーティー感を出さなきゃならないなと思って。そこで塩谷さんとの出会いもあったから面白いことがどんどん繋がっていったし、とにかく彼とは目の付けどころが似ていると思いました。

●そもそも今回の展覧会のテーマはなぜ東京とニューヨークだったんですか?

古川 : 僕が行ったことのある海外の都市っていうのがテーマで、ニューヨークのお土産屋さんに行ったときにチャーベさんと「NEW YORK FUCKIN CITY」というTシャツを見つけて、それがすごく面白いなと思って。あれはいい意味なんですもんね。それがきっかけで、FUCKINの後を色々な都市の特徴的な一言に変えて行く事によって、様々な表現が出来ると思いつきました。ニューヨークと自分の住む街東京、まずはここから表現しようと思い、テーマが決まりました。弟はタイポグラフィが得意で僕はイラストが得意だから、「NEW YORK FUCKIN CITY」と「TOKYO FUCKING TECHNOLOGY」というテーマを表現してみようということになって、つくり始めました。最近はカジヒデキさんのツアーのパンフレットで僕がレコーディングしたことのあるベルゲンという街のシリーズを描いたし、顔ハメで表現するっていうのはちょっとふざけているけど、そこが面白い感じで、これから行ったことのある色んな都市シリーズ(北欧シリーズなど)を作ってみて、最終的には色んな都市の等身大オブジェクトが集まってカオスな感じになれたら最高にハッピーです。夢の街が出来上がりますね。その時はまた塩谷さんに手伝ってもらいたいですね。1回目でこんなに面白かったので、次がとても楽しみです。


塩谷朋之、人生の一枚
DEAD KENNEDYS / Give Me Convenience Or Give Me Death

古川太一、人生の一枚
Kenny Dope / Get On Down

Profile
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顔ハメ看板ニスト 塩谷朋之
1983年生まれ。
仕事の傍ら顔をハメるべく看板を日々求める。
これまで撮りためた顔ハメ看板の写真は900枚以上。
2009年より北海道・東神楽町の夏祭りで毎年行われている顔ハメ看板コンテスト審査員。

https://twitter.com/shioya20
http://www.facebook.com/tomoyuki.shioya.7

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古川太一
1982年生まれ。
趣味は音楽や絵、鉄道など。
音楽を中心に広がるニュー・レーベルSUNNY CLUB主宰。
佐藤寛との作詞作曲チームKONCOS、弟である古川拓也とのデザインチームAnoraksを中心に活動中。

http://sunnysunny.me/
http://koncos.net/
http://anoraks.me/

文: 菅真木子
写真: 山川哲矢
撮影協力: 渋谷ウーピーゴールドバーガー

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